書籍・雑誌

2020年6月18日 (木)

早川一光の「こんなはずじゃなかった」

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早川さくら著、ミネルヴァ書房刊を読んだ。

国民医療のさきがけを担ってきた医師が94歳でなくなるまでを娘が父になって書いたものである。90歳にして多発性骨髄腫で40日間、はじめて入院して体力が弱り人生の最終譜を強く感じる。退院後にはじめて受ける介護保険医療を強烈にとまどい、風呂が決められた日しか入れない制度の不都合さを感じる。

加齢性黄斑変性症にかかり受診して、「加齢だから」をどのように受けとめて治療するかに迷う。医師であって医療や介護制度の不都合さ、医師が患者に説明する言葉の不備さを身に染みる。人生後半にかかる病気を治療するかどうかの決断は極めて重要なことと理解できる。

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▼岐阜城

新型コロナの自粛も緩和されたのでプールに通っているが絶えずリスクを感じる。チェロレッスンも始った。バッハ、無伴奏チェロ組曲に取り組む。難しいが頑張ろう。大河ドラマ「麒麟がくる」はしばらくお休みである。城の風景はドラマを思い出す。

2020年6月 6日 (土)

白の闇

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ジョゼ・サラマーゴ(雨沢泰訳)著NHK出版「白の闇」を読んだ。著者はポルトガルのリスボン生まれで、1998年ノーベル文学賞受賞者である。本書は1995年に刊行されたが、2008年映画化に伴い新装版となった。映画は"Blindness"と云うタイトルでブラジル人の監督、キャストに日本人伊勢谷友介、木村佳乃が夫婦役で出演しているそうだ。

物語は、ある男が突然町の交差点で失明する(最初に失明した男)。視界が真っ白になる失明である。この失明は原因不明のままどんどん無差別に伝染し、失明者は隔離されやがてすべての人間が視覚を失う。主な登場人物は「最初に失明した男」とその妻、男を診察した眼科の「医者」とその妻、医者に罹っていた「サングラスの娘」、「斜視の少年」、「黒い眼帯の老人」の7人である。

7人の隔離された病院は精神病院である。そこには300人隔離されており軍隊に監視され、環境はすさまじく汚く食糧も欠乏している。部屋は排泄物の臭いが充満するし、レイプがおきる。人間が理性や尊厳の念を失った究極の状態が想像される描写である。私は戦争の経験は無いが、街が廃墟となり秩序もなくなると、こんなにすさまじくなるのか怖かった。新型コロナの感染性を思う怖い小説であった。

▼新型コロナの緊急事態が解除され、少しづつであるが元の生活に戻りつつある。いろいろな趣味の会が再開され第2波を恐れつつ参加している。

世界の感染者は664万人、死者は39万人である。我が国は感染者1万7064人、死者907人であり、他国に比べて幸いな状況でいろいろ論じられている。BCGワクチンの影響や国民の対応性の違いとかである。

2019年11月 8日 (金)

老いのゆくえ

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「老いのゆくえ」黒井千次著、中公新書、2019年6月刊を読んだ。

著者は私より9歳うえである。83歳から86歳までの老いの随筆であり、まさに執筆活動中である。

私の状況に比べてまだそこまで行ってないと感心したり、将来こんなに老いて体が不自由になるのかなと思って興味深く読んだ。

85歳を過ぎ、著者がいう末期高齢者になると足腰がすぐに立たなくなるようだ。自動車免許の返納もこの歳にやっている。記憶や行動の鈍さが進んでくる。歩く姿もあやしくなりフワフワすると云う。一番怖いことは道で転ぶことだ。

若いころは病気になって医者にかかり完全な治癒感を得たが、老いると7割から8割しか元に戻らないという。また、1年に3ミリほど背が縮むそうで昔の衣服もしっくりしないとなげくが捨てられない。物を落とすことなどが増え、買い物中に小銭をばらつかせて、店員から親切にされて嘆く。

家の機器設備が悪くなって更新するときや、社会などの将来行事が発表される時、この先に自分の命が居るかを考えることがある。

体力に気をつかい30年来毎日歩く運動を続けるがこのありさまで老いは刻々と進む。

スキヤーの三浦雄一郎さんは著者と同じ1932年生まれで、エベレスト登頂を目指した。私は三浦さんを目標として生きようと思う。

2019年8月20日 (火)

ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が豊かなのか

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著者、熊谷徹はドイツに29年住んで日本へ行き来している観点から書いている。私も25年まえインスブルグに住んだことがあって共感する内容であったし、統計資料が添えられているので実感できた。

消費面、労働時間、休暇など多彩な面から書かれている。日本の消費税に相当する付加価値税は19%もあるが日常食品はもっと低いようだ。

労働時間はきっちり守られ、年30日間の休暇を連続に取って、一見生産性が低いように感じるが、国民一人あたりGDPは日本より高い。生活満足度はノルウエーが最も高く10.0、ドイツ7.0、日本5.9である。

日本の消費王国やサービス「おもてなし」に行き過ぎを感じる。外国で生活すると日本の快適さは世界一であると思う。ドイツ人は生活の不便さに馴れていることもある。我々に反省させられることもあった。

ちなみに日本の国税庁2019年報告の平均年収は432万円だそうだ。

2019年8月 4日 (日)

ひとつむぎの手

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著者は慈恵医科大卒業の沖縄出身医師である。主人公、平良祐介は大学病院、心臓外科助手である。患者治療の日常と上司教授の論文改ざんにまつわる事件がテーマである。「ひとつむぎの手」とは生命の中心となる心臓の病を手術で治癒して、人のつながりを紡ぐという医療手段を意する。

心臓病の治療は内科系の循環器内科か、外科系の心臓外科かの選択を迫られる時がある。その対立、非常に興味あった。また研修医3人の指導状況と論文改ざん事件の解明がこのテーマを面白くしている。

患者の終末の記述やせっぱ詰った治療選択には極大の感動を覚える。解離性大動脈瘤の手術かいなく臨終を迎える患者、14歳女児の横紋筋肉腫が急変して蘇生する状況、高齢の糖尿病患者で冠動脈梗塞治療を外科バイパス術にするか内科カテーテルにするかの選択は興奮する。

医師たちの出世願望とそれを阻止するいやがらせ事件も面白かった。

2019年7月22日 (月)

皮膚はすごい

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傳田光洋著の「皮膚はすごい」を読んだ。著者は京都大学分子工学の専門であり、資生堂研究員である。

医師でない人の考えに興味を覚えた。皮膚はバリア機能、防御機能を持っている。

人間は120万年前に体毛を無くした。人間の皮膚は1000億個以上の表皮細胞からなり、ケラチノサイトを含み五感を感ずるという。皮膚は温度、圧力、聴覚、味覚、臭覚などを感ずる脳と二つの情報処理装置の機能を持っているという。

皮膚の種々な機能が面白い。

2019年6月21日 (金)

新章神様のカルテ

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小学館出版今年2月発刊で、著者は信州大学医学部卒業である。神様のカルテシリーズの4作目で大学病院編になる。主人公は大学院生9年目内科医栗木一止で救急医療のチームで細君と長女2歳の小春が家族だ。

安曇野の美しい風景、大学病院の複雑なシステム、家族のことなどの記述に興味あった。

患者の状況で2人が面白い。1人目は「岡」さんで血便の大腸炎でCT検査で膵臓癌らしい像がカンファランスで問題になったが、珍しい自己免疫性膵臓炎を確定した記述である。

2人目は29歳女性「二木」さんで7歳の理沙ちゃんがいる家族で、若年性のステージIVの膵臓癌患者だ。手術不可で抗ガン剤治療も効果なく退院した彼女を大学へ連れ戻して不評が広まった事件である。院生に痛いバイト禁止の処罰を受けたが、最終的に医療に熱心な一止はチーム長に昇格になった。

住んでいる古い御嶽荘の住民の表現、とりこわしをめぐる問題、チームそれぞれの人格表現も面白い。専門的用語で膵疾患検査ERCP(内視鏡的逆行性胆管造影)や膵臓抗がん剤に使われるFolfirin-NOX、ジェムーアブラキサン、自己免疫膵臓炎の検査免疫グロブリンのIgG4が何回も出てきた。昔、大学病院に勤めたことがあって良く理解できた。

2019年1月22日 (火)

The Last Girl

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 ナディア・ムラド著「The Last Girl、私を最後にするために」(東洋館出版社)を読んだ。著者は21歳の学生で、2018年ノーベル平和賞を受賞した。戦争の性暴力を根絶する活動家である。

 イラク北部に住んでいたが、イスラム(ISIS)に襲撃され性奴隷となったが、運よく逃亡でき助けられた。その事実が述べられる衝撃的な内容である。

 第1部は襲撃される前のコーチョという村の生活、第2部はイスラムによる襲撃と戦闘員によるレイプによる囚われ、第3部は戦闘員からの逃亡の3部からなる。

 ナディアは11人兄弟の末子であり、襲撃から運よく逃亡できた。この世界でこのような体験は私を最後にするという活動をしている。

2018年12月20日 (木)

和の行事えほん

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 高野紀子作の「和の行事えほん」は1年中の行事が「1春と夏の巻」と「2秋と冬の巻」の2巻に忘れかけている行事が説明されている。

 小さいころ親に教わった行事が今となって省略されつつある。

 12月の「年越し」はもともと正月をむかえる準備をすることを云ったが、今では年末の夜から新年の夜明けにかけてすごすことを呼んでいる。

 新しい年の神さまを迎えるために家中すみずみまできれいに掃除し、きよめる「すすはらい」、そして正月用の食品を売る市「年の市」などの言葉も懐かしい。

 大晦日の夜を除夜とよび、人間の煩悩の数108つの鐘をついて新しい年を迎える「除夜の鐘」、大晦日の夜に「年越しそば」を食べて長いそばにちなんで長寿を願う。

 1年の最初の日、1月1日は「元日」、「元旦」は元日の朝をいう。「鏡餅」は年神さまにそなえるおもちで、神様がやどるとされていた鏡のように丸いおもちをそなえる。11日の鏡開きまでそなえる。

 「屠蘇」は正月に飲む薬酒で長寿になると云われた。

 などの言葉が絵と一緒に説明されている。

2018年12月 3日 (月)

イデアの影

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 本のタイトルに似合わなく不思議な本だった。読みやすいので一気に読め、何か自分の身辺に近く寄ってる感じもした。

 こじんまりした会社経営者と年離れた若く美しい奥さんの話である。家政婦ヤハギさんと三人で住んでいる。主人は奥さんに厳しい態度であった。イングリッシュガーデンのような広い庭のある家である。彼女と接する人が次々に亡くなるが、決して気持ち悪くなく自然に時が過ぎる。

 最初の人は会社の若い男性で英語を教えてもらうハセガワさん。英語の教えとクラシックのレコードを借りたり、庭の薔薇の香りを一緒に楽しんだ。ある日、彼が浴槽で死んだ。フィアンセに結婚を断られた後のことだった。

 主人の従妹が大学受験のためススムくんがしばらく一緒に住まうことになり、この家は若返る。

 主人と接している政治家タカヤナギ先生が主人の出張中に訪れる。先生とは舞踏会で会った人であり、彼女に関係を欲して訪れ、もみ合いになったところにススムくんが助けに入る。先生は床にたおれそのまま息を引く。ススムくんも薔薇のある庭で首をつって死んだ。

 彼女はその後、体調が悪くなって修道院であった静かな療養所に移る。院長先生が彼女の主治医になる。そこでハーモニカを吹く少年を知るが療養所の誰も知らないという。まぼろしのハーモニカ少年がこの後いくつかの場面に登場するが、彼女のもうろうとした心が後半のテーマでもある。

 季節を見送りながら、主人が療養所に迎えに来て家に戻ることになる。家政婦ヤハギさんは亡くなって若いシミズさんに代わっていた。主人はその三日後に亡くなる。再び彼女は療養所に戻って過去の事件について回想にふけって終わる。

 作者は元名古屋大学に勤めた60歳すぎ工学博士である。四章からなるが各章冒頭に細雪から引用した文が出る。心地よい文であった。

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