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2018年12月 3日 (月)

イデアの影

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 本のタイトルに似合わなく不思議な本だった。読みやすいので一気に読め、何か自分の身辺に近く寄ってる感じもした。

 こじんまりした会社経営者と年離れた若く美しい奥さんの話である。家政婦ヤハギさんと三人で住んでいる。主人は奥さんに厳しい態度であった。イングリッシュガーデンのような広い庭のある家である。彼女と接する人が次々に亡くなるが、決して気持ち悪くなく自然に時が過ぎる。

 最初の人は会社の若い男性で英語を教えてもらうハセガワさん。英語の教えとクラシックのレコードを借りたり、庭の薔薇の香りを一緒に楽しんだ。ある日、彼が浴槽で死んだ。フィアンセに結婚を断られた後のことだった。

 主人の従妹が大学受験のためススムくんがしばらく一緒に住まうことになり、この家は若返る。

 主人と接している政治家タカヤナギ先生が主人の出張中に訪れる。先生とは舞踏会で会った人であり、彼女に関係を欲して訪れ、もみ合いになったところにススムくんが助けに入る。先生は床にたおれそのまま息を引く。ススムくんも薔薇のある庭で首をつって死んだ。

 彼女はその後、体調が悪くなって修道院であった静かな療養所に移る。院長先生が彼女の主治医になる。そこでハーモニカを吹く少年を知るが療養所の誰も知らないという。まぼろしのハーモニカ少年がこの後いくつかの場面に登場するが、彼女のもうろうとした心が後半のテーマでもある。

 季節を見送りながら、主人が療養所に迎えに来て家に戻ることになる。家政婦ヤハギさんは亡くなって若いシミズさんに代わっていた。主人はその三日後に亡くなる。再び彼女は療養所に戻って過去の事件について回想にふけって終わる。

 作者は元名古屋大学に勤めた60歳すぎ工学博士である。四章からなるが各章冒頭に細雪から引用した文が出る。心地よい文であった。

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